【感想】「ローカルベンチャー」(牧大介:木楽舎)

ローカルベンチャー

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「ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている」(牧大介著)に出会ったきっかけはイケダハヤトさんからのご紹介でした。

岡山県・西粟倉村(にしあわくらそん)でうなぎの養殖に挑戦し、地域再生に奮闘されている方のご著書で「まじですごい!」と絶賛されていたのを耳にし、手に取りました。

一言でいうと

いてもたってもいられなくなる一冊。

壁を乗り越える人とあきらめる人

上京して20年が経ちました。いつの間にか故郷で過ごした期間より、東京での暮らしの方が長くなりました。この間、故郷に恩返しをしたい、地域に貢献したいと考えたことは一度や二度ではありません。その度に、仕事がないから無理だなと現状維持の暮らしを選んできました。

牧さんはここが違います。

地域にベンチャーがいればいい。仕事がないんだったら、仕事をつくる人がいたらいいんだ!

とお考えになったそうです。

と言っても、全ての事業を完全に一から作り上げるということではありません。本書の副題にもある通り、地域にすでに存在している可能性を見つけ出して、目に見える形にするというベクトルで突破口を見出しています。実際にやるとなったらとんでもなく大変だと思いますが。。。

地方をことさら制約条件とは考えず、むしろそこに眠る良さにスポットライトを当てるというのは前述のイケハヤさんにも通じるところがあります。

新たなチャレンジの話を聞くとそのご家族はどう思っているのだろう?といつも思います。手放しで応援してくれるケースもあれば、そうでないケースもあるはずです。本書でもチャレンジする期間などの条件を決めて、チャレンジに協力することを約束していた家族のエピソードが紹介されており、なるほどなぁ、そういう譲歩の引き出し方もあるんだと感心してしまいました。すみません、本題からそれてしまいました。

 

多様性

本書では実に多くの関係者が紹介されています。牧さんのサポーター、応援団と言った方がいいかもしれません。12年以上水族館でお仕事をされてきた方、14年間自動車メーカーで環境エンジニアをされてきた方、いちごのお菓子専門店を切り盛りされてきた方、森林組合から木の里工房を立ち上げられた方などなど、挙げ始めたらキリがありません。どの方も個性的なキャリアをお持ちで、多様性という言葉でもとらえきれないくらいバラエティに富んでいます。それぞれの方のキャリアについてもお話を聞いてみたいとさえ思ってしまいます。

私が勤める会社でも、「多様性」を旗印に組織改革を進めようとしています。しかし、実際のところ「管理職に占める女性の比率を高める」、「フレックス制を導入して優秀な人材を確保する」など、これが多様性の議論の本質なの?と疑問に感じることが多いのですが、西粟倉村の様子を聞いて私の会社がずれていることを再認識しました。

ここまで多様なタレントが集まると苦労も多いようで、一例としてコミュニケーションコストの高さについて言及されています。ただ、このコストについては、一旦メンバーの納得が得られてしまえば、その後は加速度的に個性が連鎖し、価値が創造されるので十分にペイするというお話でした。なるほど!

それにしても、表紙をめくってすぐにある「森の学校」の集合写真は、何度見てもみなさん素敵な笑顔をされています。みなさん、ぜひ一度お手にとってご覧になって下さい。

 

西粟倉村での学び

西粟倉村で長い間チャレンジをされてわかったことがたくさんあるといいます。

地域には資本主義が足りない。

地域に限らず、日本にはお金の話をタブー視する空気のようなものがある気がします。イケハヤさんのVoicyを聞くようになってその思いを一層強く持つようになりました。理想だけの赤字続きのNPOの例をあげるまでもなく、お金の話について見て見ないふりをするのは健全ではありません。むしろ、お金と仲良くするにはどうしたらを積極的に話し合うほうが、理想に向かう事業の持続可能性を高めてくれる気がします。

 

イメージしていたことが実現されるまでには10年くらいかかるのだ。

とかく変化の早さが強調される時代に生きていると、どうしても結果を早く求めてしまいがちです。私自身も何か新しいことを始めて結果が出てこないと、すぐに投げ出してしまいそうになります。

 

スタッフを「雇用している」という表現より、「役割を分け合っている」というほうがしっくりきます。

ライフネット生命の創業者で現在APUの学長をされている出口治明さんが自身の社長職について、「単なるファンクションにすぎない。えらくもなんともない」と言われていたことを思い出しました。上司、会社の同僚で、立場に任せて強気な意見を述べる人に出会った場合このエピソードを思い出すようにしています。

 

「俺が地域を変えてやる!」という上から目線のスタンスは、地域にとって迷惑です。

情景が目に浮かびますね。「地方再生」という言葉がいけないんでしょうか。都会が進んでいて、地方が遅れていると考えている都会の人は多いと思います。こんなマインドの人が自分の育った町に土足で上がり込んできたら、それはうまくいかないですよね。

 

地域の人の話を10聞いてから1を言うことが許されるくらいに考えておくといいのではないでしょうか。

※引用文の出典はいずれも「ローカルベンチャー」です。

この比率はとてもしっくりきました。私自身、移住したこともなければ移住者を受け入れた経験もありません。しかし、職場に新しい人が入ってきた時にもこれと似たような状況は起こっていると感じます。「早く馴染みたい、認められたい」と思うあまり、変革自体が目的化したり、前任者を否定することが目的化したりで空回りしてしまう人を何人も見てきました。空回りするだけならいいですが、お互いに不信感を抱き、活躍する前に去ってしまうケースも少なくありません。

 

原体験

多くの仲間とともに奮闘されている牧さんの原点には、子供時代、年に一度過ごした富山の自然での原体験があるといいます。そこで触れた海、川、森、山といった自然がその後の人生に大きな影響を与えているそうです。ここでも原体験です。

最近読んだ「20億人の未来銀行」、「戦前の大金持ち」でも様々な原体験が紹介されていました。いろいろな本から原体験を拾い集めてくる。講演にきてくださった方に原体験を語っていただくなど、原体験をキーワードにいろいろな方の人生に触れるのは楽しいかもしれません。伝記が面白い理由もそこなのかもしれません。

私が読んだ本

本書以外に私が読んだ本を一覧にしています。ぜひご覧ください。

▶︎ 私の血となり肉となった本たち