【感想】がん‐4000年の歴史 シッダールタ・ムカジー著(ハヤカワ文庫)

本庶佑教授のノーベル賞受賞をきっかけに世の中がちょっとしたオプジーボブームに沸いています。

夢の薬のように報道され、過剰な期待をあおっているようにも思えます。

本書を読んでいた私は、この状況をちょっとした既視感とともに眺めていました。

まさに歴史は繰り返すです。

失敗の歴史

がんの歴史の裏には、患者さん、家族、医師、研究者たちの多くの犠牲が存在します。

おそらく本書で紹介されている事例はそのごく一部にすぎません。

そう考えると想像を絶する多くの人たちの犠牲によって、今のがんに対する治療法が確立されてきたことになります。

数多くのチャレンジがあり、そのほとんどが失敗に終わり、ごくわずかな成功によって少しずつ進歩している様子が本書からひしひしと伝わってきます。

 

失敗の中でも、現代から振り返ると防げたのではないかという失敗もあるような気がします。

そう思う半面、それは単に歴史を逆回しに見ているからなのではないのかという気もします。

それでもその時に失敗してしまったのは、変えることの難しさによるような気がします。

自分が否定されることに対する耐性、自らの意思で自分を否定することで新しい気づきを得ようとするマインドセット、「がん」と名前をつけることで細かな違いを無視して一括りにしてしまったネーミングの罪によって、変えるタイミングを逃してしまった事例が幾通りも紹介されています。

ネーミングの罪

【感想】「おしどり夫婦」ではない鳥たち(濱尾章二著)

 

逆に考えると、失敗するのは当然と開き直って、積極的に小さな失敗をする方がより良い結果につながると考えるようになれば、失敗に対するアレルギーがかなり軽減できそうです。

また、自分の進歩が止まっていると感じる時には、自己否定に逃げ腰になっていないか、物事の捉え方そのものが名前に引っ張られて偏っていないかと考えることで、失敗に陥る思考の罠から抜け出せるかもしれません。

発見を信じる力と俯瞰する冷静さ

新たな発見にたどりついた人とそうでない人の差は紙一重。運の要素も強いです。

それでも新たな発見にたどりついた人たちは、いい意味で執念深いです。

まだ見えていないものをあると信じて探し続けるメンタルの強さ。

それを可能にするにはどのような手段があるのかと見極める冷静な目。

その研究を可能にするその時代の検査性能などたくさんの要素のバランスがピッタリ一致したところで大きな発見にたどり着いているように思えました。

会社員としてのほほんと暮らしている身としては、到底できないなと諦めにも似た気持ちにさせられたものです。

医療に関する仕事をしていながら知らなかったこと

医療関係の仕事をしていながら知らなかった歴史が3つあります。

がんについて知らなかった3つのこと

  • がん治療法の変遷
  • 緩和ケア、予防に関心が高まった時期
  • 治療法の効果を測定するための手法

がん治療法の変遷

恥ずかしながら、外科的治療法(根治術)→放射線治療→化学療法という大きな流れについて知りませんでした。

この流れの先に、予防医療、緩和ケア、免疫療法というのが続いていくのかもしれません。

書いてしまえば一行で済んでしまいますが、実際は何百年、何千年という時間をかけて化学療法を見つけるところまで来ました。

折しもオプジーボ 関連でノーベル賞。

この大きな流れの転換点にいあわせていると思うと、なんだかワクワクします。

新しい治療法への熱狂は、これまでの変革期にも発生していたようです。

これが冒頭の既視感につながります。

問診票とカルテオプジーボに集まる過剰な期待と不安

緩和ケア、予防に関心が高まった時期

緩和ケア、予防に関心が高まってきたのはごくごく最近のことです。

古くから議論されているかと思いきや、徹底的に治せ!というマインドからは緩和ケア、予防に意識を向けることは難しく、最近になってようやくこのような議論をするようになったというのです。

私も仕事では患者さんの病気を治すお手伝いをする側にいますが、もっと早く気づいていれば、この生活習慣を変えていれば、治療の必要すらなかったんではないかと思うことはとても多いです。

この意味で緩和ケアや予防に関心が高まっている今の傾向はとても喜ばしいことです。

本当に医療を必要としている人に的確に集中的に医療を提供するためには、緩和ケア、予防にもっと力を入れるべきであることは明らかです。

治療法の効果を測定するための手法

治療に効果があったのかなかったのか、副作用は受け入れられる範囲内かどうかなど治療法の効果を測定するための手法が真剣に考えられるようになったのもまた最近だったようです。

誤解を恐れずに言えば、それまでは治療を施した医師の独断と偏見で決まっていた部分が多いといいます。恐ろしい。

今でも医者が言うことは絶対と言うような風潮は無きにしも非ずです。

しかし昔ほど医師の言いなりと言う状況でもないような気がします。

求めれば治療法に関する最新の知識を入手することが簡単にできる時代です。

最新の医学論文をインターネットで検索することも極めて容易になっています。

ですので、昔ほど医師と患者の間で知識差はなくなっているのは確かです。

ランダム化比較試験の有用性を最近まで理解していなかった医師がいると言う事実には驚きました。

私が読んだ本

本書以外に私が読んだ本を一覧にしています。ぜひご覧ください。

▶︎ 私の血となり肉となった本たち